2019年1月15日火曜日

一斉署名を呼びかけます!


東京電力福島原発刑事訴訟「厳正な判決を求める署名」
一斉署名行動の呼びかけ

福島原発事故に対する東電元経営陣の責任を問う刑事裁判は、2017年6月30日の初公判以来36回が開かれ、20181226日に論告・求刑、27日に被害者代理人の意見陳述が行われました。今年の3月12日・13日には元経営陣の弁護士による最終弁論が行われ、結審となる予定です。
 私たちは公判の度に、東京地裁の永渕健一裁判長へ「厳正な判決を求める署名」を届け、現在まで約4万筆を数えました。全国の皆さまから沢山の署名が次々と届き、本当に嬉しく思います。ご協力ありがとうございます。
 私たちは、さらに多くの署名を集め、結審の日まで裁判所に届けたいと考えています。
 一人でも多くの方にこの裁判を知って頂き、厳正な判決を求める声を裁判所に伝えるために、1月27日(日)に福島県内3か所(いわき市、郡山市、福島市)で、13:00より一斉街頭署名を行います。
 寒い折りではありますが、願わくば全国でも街頭署名に取り組んで頂けますよう呼びかけます。どうかよろしくお願い申し上げます。

福島原発刑事訴訟支援団
福島原発告訴団
A3プラカード
A5チラシ 

2019年1月3日木曜日

刑事裁判傍聴記:第36回公判(添田孝史)

東電の闇はどこまで解明されたのか


会見する被害者参加弁護士ら=東京の司法記者クラブで、2018年12月27日
   2018年12月27日に開かれた第36回公判では、被害者参加制度による遺族の代理人弁護士として、海渡雄一弁護士、大河陽子弁護士、甫守一樹弁護士が意見を述べた。

 検察官役をつとめる指定弁護士らは刑事裁判のプロ。一方、この日意見をのべた代理人弁護士らは、東電株主代表訴訟や各地の運転差し止め訴訟にかかわる原発訴訟の第一人者だ。その視点から、公判における証言や証拠を分析した結果が示された。

 海渡弁護士は「私たちは、この事故は東京電力と国がまじめに仕事をしていれば防げたこと、その責任が明らかにされなければ死者の無念は晴らされないと考える」と述べ、指定弁護士と同様、禁錮5年の処罰を求めた。

「ちゃぶ台返し」、2008年7月31日より前だった?

   東電で津波想定を担当する土木調査グループの社員たちは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部、推本)が予測する津波(15.7m)への対策が必要だという意見で一致し、具体的な工法等の検討を進めていた。それを被告人の武藤栄氏が、2008年7月31日に止めてしまった。津波対応の方針をひっくり返してしまったことから、7月31日は「ちゃぶ台返し」の日とも呼ばれてきた。

 海渡弁護士は、「ちゃぶ台返し」は、本当はこの日より前だったのではないかという疑念を示した。7月31日とすると辻褄が合わない証拠がいくつもあるというのだ。

会合41分後、手回しの良すぎるメール

   その一つは、7月31日の会合が終わってから41分後に、酒井俊朗・土木調査グループGMが、日本原電や東北電力の担当者に送ったメール(*1)だ。

 それまで東電は、日本原電や東北電力に対して、「地震本部の検討結果を取り入れざるを得ない状況である」(*2)と説明していた。

 この方針が、この日の会合でひっくり返された。酒井氏は第8回公判で「今まで東電が実務レベルで説明していた結果と違う方向になったので、これはちょっと早く東北さんと原電さんに状況説明しないと、ものすごく混乱するなと思って、すぐにメールを出しました」と証言している。

 海渡弁護士は、このメールを「手回しが良すぎる」と見た。メールでは、今後の方針のポイント、これから検討すべき事項について部下への指示などが具体的に書かれている。さらに、他社との会合候補日まで書かれているから、それに先立って社内で部下と日程を打ち合わせする時間も必要だったはずだというのだ。「事前に武藤氏の出していた結論を知り、事前に打ち合わせが済んでいて、事前に途中までこのメール作成を準備していたと考えないと、説明のつかないスピードである」と海渡弁護士は述べた。

停止リスクを取り上げた会合があったはずだ

   もう一つは、7月31日の会合は50分しかなく、停止リスクについては話し合われた形跡がないことだ。

 酒井氏の上司である山下和彦・新潟県中越沖地震対策センター所長は、「ちゃぶ台返し」の状況について、以下のように説明している。

「耐震バックチェックの審査において、OP+15.7mの津波対策が完了していないことが問題とされた場合、最悪、保安院や委員、あるいは地元から、その対策が完了するまでまでプラントを停止するよう求められる可能性がありました。東電は、先ほどもお話ししたとおり、当時柏崎刈羽の全原子炉が停止した状況にあったことから、火力による発電量を増やすことで対応していましたが、その結果燃料費がかさんだため、収支が悪化していました。そのような状況の中で、1Fまでも停止に追い込まれれば、さらなる収支悪化が予想されますし、電力の安定供給という東電の社会的な役割も果たせなくなる危険性がありました。そのため東電としては、1Fが停止に追い込まれる状況はなんとか避けたいことでした」
「武藤本部長、吉田部長、私は口々に水位を少しでも低減できる可能性があるのであれば、まずそれを最初に検討するべきであると発言しました」

 また、酒井氏も、ちゃぶ台返しの理由について「柏崎も止まっているのに、これで福島も止まったら経営的にどうなのかって話でね」と日本原電の関係者に話していたとされる(安保秀範氏の検察調書、第23回公判)。

 7月31日の前、停止リスクについて突っ込んだ話をした場があったに違いない。「重要人物がそろい、十分な時間をかけて議論できた場が存在する。それは7月21日の御前会議の場であった」と海渡弁護士は説明した。

「津波」消された御前会議の議事メモ

   方針転換は御前会議でなければならない理由は、もう一つある。2008年2月の御前会議で、地震本部の津波予測を取り入れて対策を進める方向は、いったん決まっていた。だからそれを変更するには、もういちど御前会議を通す必要があるのだ。

 御前会議での検討結果であれば、酒井氏が7月31日に出したメールで「経営層を交えた現時点での一定の当社結論になります」と書いているのとも符号する。武藤氏単独の判断では、ここまで書けるかどうか、疑問があるからだ。

 しかし、7月21日の御前会議の議事メモには、津波のことは書かれていない(*3)。出席していた(本人の証言、第8回公判)酒井氏の名前も、なぜか出席者のリストに無い。

 海渡弁護士は「議事メモの津波に関する部分は、出席していた酒井氏の名前とともに削除されてしまったのかもしれない」「津波に関することは議事メモを残さないという社内方針が存在したとしか考えられない」と言う。

 議事メモについては、2008年2月16日や2008年3月20日の御前会議でも疑惑があるという。関係者のメールや証言では、御前会議で津波問題が話し合われたことが明らかなのに、議事メモには残されていないからだ。

 海渡弁護士は「御前会議の議事メモには情報隠蔽の疑いがある」と指摘する。

 「ちゃぶ台返し」には武藤氏だけでなく、勝俣氏や武黒氏なども早い段階から関わっていて、それが隠されている可能性がある。

2002年、高尾氏2つのうそ

   「ちゃぶ台返し」問題とは別に、代理人弁護士が明らかにした証拠から、いくつか新しいこともわかった。

 一つは、2002年8月に、原子力安全・保安院が東電の高尾誠氏を呼び出し、「福島沖も津波を計算すべきだ」と要請していたが、高尾氏が「40分間くらい抵抗」して、結局計算を免れていたことだ。2002年7月、地震本部が福島沖の大津波予測を公表した直後の出来事である。

 東電の担当者が呼び出されたことは、別の裁判で被告になっている国が千葉地裁に提出した電子メールからわかっていた。ただし担当者の名前は白塗りで隠されていたので、「40分抵抗」したのが高尾氏だったことは初めてわかった(*4)

 この時、高尾氏は計算を免れるため、保安院に2つのうそをついた。

 一つは、「土木学会の報告書では、福島〜茨城沖の海溝寄り領域において津波地震を発生しないと判断している。想定していない」と説明していたこと。実際には土木学会では福島沖で津波が起きるかどうか、検討していなかっただけで、「想定していない」というのは事実と異なる。今村文彦・東北大教授が別の裁判で証言している(*5)

 もう一つは、保安院からの宿題に、事実と異なる返答をしたことだ。

 保安院は、地震本部の委員から経緯を聞いてくるように高尾氏に要請した。それに対して高尾氏は「どこでも津波地震が起きるという結論に委員は異論を唱えていた」と事実と異なる説明を保安院にしていた。実際には、この委員は過去の津波地震の発生場所について、意見していただけだった。

 高尾氏は、2007年11月以降、津波地震対策を進めるため社内で奮闘していたことが、刑事裁判では明らかになっている。その背景には、2002年にうそで保安院を誤魔化したことへの悔いがあったのかもしれない。

貞観津波の隠蔽工作

   貞観津波への危機感を、東電が早い段階から持ち、リスクが表面化しないよう隠蔽を進めていたこともわかった。

 東電が津波の検討を始めた2007年11月に、東電設計が最初に作った文書「福島第一・第二原子力発電所に対する津波検討について」(*6)には最新知見として

1)茨城県による房総沖地震津波
2)貞観地震津波
3)福島県の津波堆積物

が記入されていた。貞観津波は最初から検討対象で、地震本部の津波はその後、追加されたことがわかる。

 2009年6月24日に開かれた保安院の審議会で、専門家から東電の貞観津波対応が不十分という指摘がされた。このことについて、酒井氏はその日のうちに、「津波、地震の関係者(専門家)にはネゴしていたが、岡村さん(岡村行信・産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長、地質の専門家)からコメントが出たという状況」と武藤、武黒両被告人にメールを送っていた。

 「現在提案されている複数のモデルのうち、最大影響の場合10m級の津波となる(*7)。→地震動影響の資料の出し方について要注意(モデルが確定しているような言い方は避ける)」とも報告している(*8)

 甫守弁護士は「このメールの宛先は武藤と武黒であり、保安院のバックチェック審査で福島の津波がクローズアップされてきたのであるから,この時点でも役員が『そんな対応は安全第一とは到底いえない、きちんと対策を急ぎなさい』と指示すれば津波対策に取りかかるきっかけとなり得たはずである」と指摘した。

 その後、岡村氏の指摘を反映して、東北電力は貞観地震のモデル2つを取り入れ、モデルの位置も地図に入れてバックチェック中間報告書を修正していた。一方で、東電は報告書を直さなかった(*9)。貞観津波のリスクが注目されないように、会社ぐるみで工作していたのだ。

想定外津波への対応(津波AM)もしなかった

   2006年5月11日に開かれた第3回溢水勉強会についても、新たな事実がわかった。

 この回では、福島第一5号機に敷地高さより1m高い津波が襲来した場合の被害予測が報告された(*10)。小野祐二・保安院原子力安全審査課審査班長は「この結果を聞いて、確かJNESの蛯沢部長が『敷地を越える津波が来たら結局どうなるの』などと尋ね、東京電力の担当者が『炉心溶融です』などと答えたと記憶しています」(*11)と答えていた。

 さらに蛯沢部長の発言のメモとして、「④水密性」「大物搬入口」「水密扉」「→対策」という記述が残されている。敷地を超える津波については機器が水没しないようにして炉心溶融を防ぐべきとの指導もしていた(*12)

 こんな溢水勉強会の内容は、逐一議事メモが作成され、その結果は、電力各社上層部にも報告されていた。2006年9月28日に開かれた電事連385回原子力開発対策委員会(武黒被告人が部会長)でも、報告されている。

 この報告に添付された「保安院/JNESとの溢水勉強会への対応状況について」という文書には、代表的サイトの影響報告が詳細に記述され、福島が余裕が少なく極めて厳しいことがわかるようになっていた(*13)

 それにもかかわらず、武黒氏は「対応をとるべき」という保安院の要請について「必ずしもという認識ではなかった。可能であれば対応した方が良いと理解していた」と証言している(第32回公判)。

 保安院の小野班長は、2008年10月6日の電力会社一斉ヒアリングの際に、設計想定を超える津波があり得ることを前提に具体的な対策を検討してほしいと各社に指示した。それにもかかわらず、その後の電力会社の説明が実質ゼロ回答だったことを受け、「『前回の一斉ヒアリングから半年も経って出した結論がこれか。電力事業者はコストをかけることを本当にいやがっている』と思うと、正直、電力事業者の対応の遅さに腹が立ちました」と供述していることもわかった(*14)

 東電は、耐震指針改訂によって必要となった津波想定水位の引き上げ(図の①)を引き延ばしただけでなく、溢水勉強会の結果から要請されていた想定外津波への対応(図の②、津波アクシデントマネジメント)も、事故時まで全くやらなかったのだ。②は安いし、目立たないように工事できるから、停止リスクも回避できた。水密化、代替電源の用意など②の対策だけでも実施していれば、事故の被害は大きく軽減できただろう。

図 2つの津波対策
   「被告人らが、津波対策の実施を決断し、必要な対策を部下にとるように指示していれば、この事故の発生は防ぐことはできた」(海渡弁護士)のである。
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    「Subject:【会議案内:要返信】推本 太平洋側津波のバックチェックでの扱い
From:酒井俊朗
Date: 2008/07/31 11:01
原電安保GM
東北松本課長
東電酒井です。お世話になっております。
推本太平洋側津波評価に関する扱いについて,以下の方針の採用是非について早急に打合せしたく考えております。
・推本で,三陸・房総の津波地震が宮城沖~茨城沖のエリアでどこで起きるかわからない,としていることは事実であるが,
・原子力の設計プラクティスとして,設計・評価方針が確定している訳ではない。
・今後,電力大(電気事業連合会の共通課題、筆者注)として,電共研~土木学会検討を通じて,太平洋側津波地震の扱いをルール化していくこととするが,当面,耐震バックチェックにおいては土木学会津波をベースとする。
・以上について有識者の理解を得る(決して,今後なんら対応をしない訳ではなく,計画的に検討を進めるが,いくらなんでも,現実問題での推本即採用は時期尚早ではないか,というニュアンス)

以上は,経営層を交えた現時点での一定の当社結論となります。

以上の方針について,関係各社の協調が必要であり,また各社抱えている固有リスクの観点で,一枚岩とならない可能性があると思います。
以上を踏まえて,早急に打合せをしたく考えます。8月4日午前・午後,8月5日午前で設定したいと思いますので,ご都合を御連絡お願いします(原電安保様:必要があればJAEAさんにも転送お願いします)。

電事連小笠原様:
・本件,初耳かもしれませんが,経緯としては『土木学会津波策定後,推本が太平洋側の津波評価を公表していますが,それによると,三陸沖の津波地震について,過去に発生していない,宮城沖南部~茨城沖北部にかけて,どこでも発生しうる」となっており,女川・福島・東海サイトで,土木学会津波評価を上回る可能性となります。
・当面,電事連大(電気事業連合会全体での取り組み、筆者注)でとはなりませんが,当社,経営層まで,話があがっており,何かの機会に,電事連高橋部長あたりの耳にも入るかと思いますので,情報を共有させていただきました。
以上

以下,社内向け:
・エリア8房総沖を福島沖へ持ってきた場合の数値計算による影響評価。
・エリア3とエリア8について重みを50:50とした場合の確率論的ハザードの見直し。
を東電設計に指示願います。」

*2 たとえば、東電、東北電力、日本原子力発電(原電)、JAEAなどが参加した2008年3月5日の会合で、東電は以下のように説明している。
「東電福島は電共研津波検討会の状況、学者先生の見解などを総合的に判断した結果、推本(地震調査研究推進本部)での検討成果(福島県の日本海溝沿いでのM8を超える津波地震などが発生する可能性があるとの新しい知見)を取り入れざるを得ない状況である」
https://level7online.jp/2018/津波対応、引き延ばした」東電、事故3年前に他電力に説明/

*3 被害者意見要旨p.69

*4 東電の津波対策拒否に新証拠 原発事故の9年前「40分くらい抵抗」
https://dot.asahi.com/aera/2018013000005.html

*5 「土木学会で安全確認」実は検討していなかった
https://level7online.jp/2018/「土木学会で安全確認」実は検討してなかった/

*6 被害者意見要旨p.38

*7  http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9483636/www.nsr.go.jp/archive/nisa/disclosure/kaijiseikyu/files/44-1.pdf
貞観津波の「モデル10」でパラメータースタディを実施すると、10mの敷地を超える高さになる。

*8 被害者意見要旨 p.93

*9 『東電原発裁判』p.68

*10 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3532877/www.nisa.meti.go.jp/oshirase/2012/05/240517-4-1.pdf

*11 論告要旨2 p.123〜124
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.com/2018/12/blog-post.html

*12 被害者意見要旨p.110

*13 被害者意見要旨p.30

*14 被害者意見要旨p.110
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添田 孝史 (そえだ たかし)
サイエンスライター、元国会事故調協力調査員
著書に 『原発と大津波 警告を葬った人々』、『東電原発裁判―福島原発事故の責任を問う
(ともに岩波新書)
添田さんの公判傍聴記一覧

2018年12月31日月曜日

刑事裁判傍聴記:第35回公判(添田孝史)

指定弁護士、禁錮5年を求刑

厚さ2センチ以上ある論告
   12月26日の第35回公判では、検察官役を務める指定弁護士が、勝俣恒久氏ら3人の被告人の罪について、これまでの公判での証言や集めてきた証拠をもとに論告(*1)を読み上げた。事故がもたらした結果の大きさ、被告人の地位・立場・権限の大きさ、やるべきことをやっていない程度などから、業務上過失致死傷罪の中でも責任は極めて重いとして、3人に禁錮5年を求刑した。

 論告・求刑は午前10時から休憩をはさんで午後5時すぎまで続いた。石田省三郎弁護士ら指定弁護士5人が交代しながら論告を読み、最後に「被告人らに有利に斟酌すべき事情は何ひとつない」「3名の責任の大きさに差をつける事情もない」として3人に同じ量刑を求めた。

 論告の中では、これまでの公判では触れていなかった東電社員や原子力安全・保安院職員の供述調書についても述べられており、新たな事実もわかった。

キーワードは「情報収集義務」

   10月に行われた被告人3人への本人尋問では、責任を転嫁する供述が目立った。

「特に津波についての問題意識はありませんでした」
「原子力部門のほうで自立的にやってくれるものだと思っていた」
「取扱を土木学会に検討依頼したい」
「まとまったところで報告があると思っていた」

 指定弁護士は、こんな被告人らの責任を問うキーワードは「情報収集義務」であるとして、以下のように述べた。

 「15.7mの津波計算結果などを契機に、被告人らが他者に物事を委ねることなく、自らその権限と責任において、積極的に情報を取得し、これらの情報に基づいて的確かつ具体的な対策を提起し、これを実行に移してさえいれば、本件のような世界に例をみない悲惨な重大事故を防ぐことができたのです」

担当社員は「対策必要」で一致していた

   指定弁護士が細かく調べたのは、東電で津波想定を担当する土木調査グループ(*2)の動きだ。酒井俊朗グループマネージャー(GM、第8、9回公判証人)、高尾誠課長(第5〜7回)、金戸俊道主任(第18、19回)と計7回の証人尋問を重ね、被告人らの責任を浮き彫りにしてきた。

 指定弁護士は、こう述べた。

「土木調査グループが一貫して、長期評価を取り込んで津波評価を行う必要があると考え、大規模な津波対策工事が必要であると認識していたことについて、酒井、高尾、金戸の3人の証言は一致しています。そして、東京電力におけるメール、議事録、資料等にも、土木調査グループのこうした認識と方針が明確に示されています」(*3)

「武藤被告人、2008年6月10日には対策の義務」

   武藤氏には、吉田昌郎・原子力設備管理部長ら部下から、津波想定の結果や対策工事について、2008年6月10日と同年7月31日の両日に、具体的な進言がされていた。

 論告では、武藤氏の過失責任について「これらの努力を全く無視してしまったのは、武藤被告人自身に他なりません。このような事情にありながら、担当者からの報告がなかったとして、弁解し、自らの責任を回避しようというのは、責任転嫁も甚だしいといわなくてはなりません」とされた。

 そして、2008年6月10日の時点で
  1. 原子力設備管理部の担当者らに対して、具体的な津波対策をすみやかに検討させ
  2. その結果を勝俣氏や武黒氏らに報告するとともに
  3. 常務会や取締役会を開いて、対策工事を実施することや、これが完了するまでは原発の運転を停止すべく決議するよう進言する
などの義務があったとした。

 指定弁護士は、「その義務を怠り、それ以降も漫然と原発の運転を続けた過失があり、本件事故を引き起こした」と述べた。

「武黒被告人、2009年4月か5月、対策の義務」

   武黒氏は、2009年4月か5月に、吉田・原子力設備管理部長から津波予測について報告を受けた。遅くともこの時点で、武藤氏が2008年6月10日時点で聞き知った内容と同じ事態を認識していた。当時、武黒氏は、原子力・立地本部長で、原発の安全について第一次的に責任を負う部署のトップだった。

 論告では、報告を受けた時点で、
  1. 担当者に具体的な津波対策を検討させ
  2. 勝俣氏ら最高経営層に報告するとともに
  3. 自ら、常務会や取締役会に対して、対策工事を実施することや、これが完了するまでは原発の運転を停止すべく決議するよう提案し
  4. これを実行する
義務があったし、「漫然と、部下からの報告を待つだけということなど許されないのです」と説明されている。

「勝俣被告人、疑問や不安を抱かなかったこと、おかしい」

   勝俣氏は、「福島県沖については、津波は、基本的に大きな津波は来ないということで聞いていましたので、特に津波についての問題意識はありませんでした」と供述していた(第33回公判)。

 一方、2009年2月11日の「御前会議」で、吉田部長から「もっと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて、前提条件となる津波をどう考えるか、そこから整理する必要がある」という発言を聞いていた。

 指定弁護士は、「吉田部長の発言に、何の疑問を抱かず、不安をも抱かなかったことこそ、おかしいのです。もし疑問も不安も抱かなかったとすれば、原子力発電所の安全性についての意識が著しく欠如していたということになります。最高経営層としての資格をも問われるものといわなくてはなりません」と指摘。
 「御前会議のもっとも上位の者つまり『御前』として出席し、同じ場には武黒氏、武藤氏、原子力設備管理部長など担当者もいたのだから、正にその場を活用して、丹念に報告を求め、綿密に協議し、他の被告人らとともに津波対策を検討すべき義務があった」と説明した。

初めて明らかにされた事実も

   論告の中では、検察や指定弁護士が集めた関係者の供述や、電子メールや議事録も数多く示された。その中にはこれまで明らかにされていなかった内容もあった。
 たとえば「御前会議」について、被告人らは、この会議が意思決定の場ではなかったと強調していたが、清水正孝元社長は異なる供述をしていた。

「『中越沖地震対応打合せ』(御前会議)のように、会長から発電所の所長に至るまで、これほどの幅広に集まって方向性の議論を行い、共通の認識を持つ場というものは、私が知る限り、これまで例がなかったと思います」

「『中越沖地震対応打合せ』は、常務会等で意思決定する前段階として、経営層の耳にいれておくべき中越沖地震後の対応に関する重要案件につき、情報を共有し合い、方向性の議論を行って、その方向性につき共通の認識を持つ場でした。その後、原子力・立地本部等の担当部署が、さらに、その方向性に基づいて、具体策を煮詰めていき、最終的には、常務会等において意思決定がなされることになります」

 「御前会議」について、被告人らは「情報共有の会合であり、意思決定の場ではない」と繰り返し否定し続けていたが、実際には「方向性の議論と、その共通の認識を持つ場だった」と元社長が供述していたのだ。

東電の民事訴訟における主張、嘘とばれる

   被害者らが東電を訴えている民事訴訟で、東電は「水密化や高所配置等の対策(*4)は、本件事故を知っている今だからこそいえること」と主張している(*5)。事故前には発想がなかった、後知恵だと言うわけだ。しかし、論告の中で、そのような対策を東電が事故前から検討、認識していたことが明確にされ、東電が嘘を言っていたことがわかった。

 東電・機器耐震技術グループの長澤和幸氏は、第1回溢水勉強会(*6)後の2006年2月15日に、「想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)」を作成。影響融和のための対策(例)として、進入経路の防水化、海水ポンプの水密化、電源の空冷化、さらなる外部電源の確保という具体的な対策を挙げていた(*7)。事故の5年前に、すでに社員が作成した水密化等の報告書があったのだ。

 また、2006年11月10日に開催された電事連既設影響WGで、各電力会社の津波対策が報告されていたこともわかった(*8)。たとえば中部電力は、「原子炉建屋等の出入り口には腰部防水構造の防護扉等が設置されている」としていた。水密化対策に他社が取り組んでいることも、東電は知っていたことになる。

 これらの事実は、政府や国会の事故調では報告されておらず、今回の公判で初めて明らかにされた。東京地検が収集した証拠や、指定弁護士が新たな捜査で得た証拠を集大成した論告を読み込むと、まだまだ同じような発見が期待できそうだ。刑事裁判が明らかにした事実は、東電や国の嘘や隠蔽を暴くことに役立ち、各地の民事訴訟にも大きく影響を与えそうである。
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*1 論告は、以下の構成で全194ページ。年表つき。
「はじめに」
第1「本件事故の経過と原因」
第2「被害の状況」
第3「被告人らの立場と『情報収集義務』の契機となる事実」
第4「地震対策センター土木調査グループの活動」
第5「長期評価の信頼性」
第6「結果回避義務の内容と結果回避可能性」
第7「被告人らの『情報収集義務』の懈怠と過失責任」
第8「情状」
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.com/2018/12/blog-post.html

*2 本店原子力・立地本部原子力設備管理部新潟県中越沖地震対策センター土木調査グループ(2008年7月1日までは土木グループ)

*3 論告p.26

*4 敷地が水につかることを前提とした、ドライサイトにこだわらない対策

*5 たとえば、生業訴訟の被告東京電力最終準備書面(2)(責任論及び過失論について)2017年3月10日 p.86

*6 原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構(JNES)が開催していた、原発の津波に対するアクシデントマネジメントを検討する会合。

*7 論告p.123

*8 論告p.125
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添田 孝史 (そえだ たかし)
サイエンスライター、元国会事故調協力調査員
著書に 『原発と大津波 警告を葬った人々』、『東電原発裁判―福島原発事故の責任を問う
(ともに岩波新書)
前回の公判傍聴記

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2018年12月29日土曜日

被害者参加人意見陳述

12月27日の第36回公判では、被害者参加人である事故被害者遺族の代理人として、告訴団の弁護団が意見陳述をしました。
「原発事故を引き起こした者の責任が明らかにされなければ、命を奪われた被害者の無念は晴れない」
この思いを裁判所はしっかりと受けとめて、厳正な判決をされるよう望みます。

被害者意見要旨(PDF)

2018年12月27日木曜日

求刑禁固5年! (論告リンクあり)

12月26日の第35回公判で、指定弁護士が論告を行い、東京電力勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長に、禁固5年の求刑を行いました。
指定弁護士は、同種事件の例として、45名死亡22名負傷の川治プリンスホテル事件が禁固2年6月の実刑、32名死亡24名負傷のホテル・ニュージャパン事件が禁固3年の実刑だったことを挙げつつ、この東電刑事訴訟では被告人らに有利に斟酌する事情は何ひとつないとして、業務上過失致死傷罪の禁固刑としては法定刑の上限となる5年を求めました。
27日の第36回公判では、被害者参加人の意見陳述として、海渡弁護士ら代理人からの意見陳述を行います。こちらもぜひご注目ください!

論告本文1(PDF・7MB)
論告本文2(PDF・5MB)
論告年表(PDF・2MB)

2018年12月13日木曜日

論告・求刑は12月26日・27日!

東電刑事裁判は、証拠調べが終了し、今月の26日から27日にかけて、論告(検察側が事件のあらましを述べる)・求刑が行われます。また、被害者参加代理人からも意見陳述があります。
年の瀬も迫る慌ただしい頃ですが、どうぞご注目下さい!
また、26日は、参議院議員会館にて公判併行集会を開催します。午後の部の講師には、おしどりマコ・ケンさんをお呼びして、東電取材の経験から見えてきたものについてお話しいただく予定です。こちらへのご参加もお待ちしております!


12月26日(水) 第35回公判期日 東京地裁104号法廷 開廷10:00(傍聴抽選締め切り9:00)
公判併行集会予定
時間…11:00~16:00頃 公判終了後に同じ場所で報告会を開催予定。
場所…参議院議員会館 講堂
   14:00~ 講演:おしどりマコさん、ケンさん
*併行集会後、同じ会場で裁判報告会を行います。


12月27日(木)第36回公判期日
第36回公判期日
 東京地裁104号法廷 開廷13:30 (傍聴抽選は裁判所HP参照
裁判終了後報告会
時間…未定。裁判終了後に行います
場所…参議院議員会館 講堂


東電刑事裁判・ふくしま連続報告会を開催します!
ブログ「お知らせ」タブよりご覧ください

2018年11月25日日曜日

札幌市 刑事裁判報告会!

札幌市で開催される東電刑事裁判報告会のお知らせです!

東電福島原発刑事訴訟は、昨年6月30日に初公判を迎えて以降、この間の法廷で、津波の想定、根拠となる長期評価の信ぴょう性、被告らによる「ちゃぶ台返し」など、原発事故に至る経緯が明らかになりました。
多くの原発訴訟の代理人も務める海渡雄一弁護士から、裁判の争点とポイントをわかりやすくお話しいただきます。

日時 12月11日(火) 18:00~20:00
場所 北海道クリスチャンセンター(札幌市北区北7条西6丁目)
内容 講演 海渡雄一弁護士
   発言 大間原発建設差し止め訴訟・泊原発廃炉訴訟
資料代500円