2016年4月16日土曜日

東電に「寄り添う」福島地検の不起訴

元国会事故調協力調査員でサイエンスライターの添田孝史さんより、汚染水放出事件不起訴処分について、寄稿していただきました。
参考:2013年9月3日記事 汚染水海洋放出事件を刑事告発!
参考:2016年3月29日記事 汚染水告発が不起訴処分 
参考:2016年4月14日記事 「汚染水流出」不起訴処分で検審申し立て! 


東電に「寄り添う」福島地検の不起訴

添田孝史(サイエンスライター)

 東京電力が放射性物質を含んだ汚染水を海に流し続けていることは犯罪ではないのか。福島地方検察庁は3月、公害罪の疑いで刑事告発されていた東電の勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武藤栄元副社長ら新旧幹部を不起訴にしましたが、福島原発告訴団は理由が納得できないとして4月13日、福島検察審査会に審査の申し立てをしました。

 東電は、福島原発事故発生から2か月後の2011年5月に、「汚染水の海への新たな流失は止まった」と発表していました。以降も実際には1日300〜400トンも漏れ続けていて、周辺の海域を調べている科学者たちから再三指摘されていたのに、流出を認めたのは2013年7月になってからでした。
 汚染水の海洋流出を避けるために地下に遮水壁を設けることが必要なことは、事故直後の2011年4月には政府から指摘されており、同年6月には東電自身が基本設計をまとめていました。粘土壁で1〜4号機の原子炉建屋とタービン建屋の地下をぐるりと取り囲み、汚染水が海へと広がらないようにするものです。ところが東電は、1000億円程度と見込まれた費用で債務超過に近づくことから実行を渋り、先延ばししてしまいます。結局、遮水壁の工事は2013年夏に、税金を使って凍土壁で作ることが決まるまで、必要性が認識されていながら先延ばしにされます。
 これとは別に、東電は2013年8月には、汚染水をタンクから300トン漏らす事故を起こしています。東電が水漏れを起こしやすい組み立て式タンクを使い続け、さらに漏れを早期に発見する見回りや堰の管理を怠ったことが原因でした。
 これは単独でもINES(国際原子力事象評価尺度)でレベル3と評価されるほどの大事故でした。これより高いレベルの事故は、国内ではまだ福島原発の炉心熔融・爆発事故(レベル7)、茨城県東海村のJCO 臨界事故(レベル4、1999年)しかありません。


 東電は汚染水に関連し、これだけ不始末を積み重ねてきました。ところが福島地検は、「海の汚染が、爆発事故によるものなのか汚染水の流出によるものなのか区別できない」「陸側の遮水壁設置を義務として課すことは出来ない」などとして不起訴を決めたのです。
 福島地検の言い分通りならば、大事故を起こして環境を汚染してしまえば、その後はどれだけ汚染しても公害犯罪として全く立証できないことになります。陸側の遮水壁が無くても対策として十分であるとしているのは、現在、税金を投入してそれを建設していることと明らかに矛盾しています。
 法令で原発から放出される水の放射性物質濃度の上限は「告示濃度限度」として定められています。東電自身が、これを超える濃度の汚染水を漏らしていると認めているのに、福島地検は「建屋内の滞留水と比較すると極めて低濃度」として、犯罪が立証困難としています。犯人が自供しているのに「原子炉近くの汚染水と比べれば薄いから」と、わざわざ見逃してあげているのです。


 福島地検は、立証が比較的難しい点を探し出すことばかり熱心で、その条件下でも合理的に立証していく筋道を探しだそうとする意思が見えません。炉心熔融・爆発事故の責任追及でも2度にわたって東電幹部を不起訴と判断した東京地検と同じで、権力に寄り添う態度をひしひしと感じます。