2016年4月29日金曜日

不起訴相当議決を受けて 添田孝史さんから寄稿

『原発と大津波 警告を葬った人々』の著者、サイエンスライターの添田孝史さんから、検察審査会不起訴相当議決に対する見解が届きました。

添田 孝史さん


土木学会はそんなに偉い? 検察審査会の誤り

 東京電力福島第一原発の事故で、業務上過失致死傷の疑いで告訴・告発されていた東電の社員や、旧原子力安全・保安院の幹部ら計5人を不起訴とした東京地検の処分について、東京第一検察審査会は不起訴の判断に誤りはないと判断した。
 4月28日に検審が公表した「議決の要旨」は、東電社員に浸水の予見可能性があったことは明確に認めている。政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が予測した大津波によって、事故が引き起こされることを2008年には予見できたとした。一方、その結果をもとに土木学会に津波の再検討を依頼して2011年には間に合わなかったことを「誤った判断であるとは考えられない」とし、結果回避義務違反は無いので過失は問えないとしている。
 この検審の判断は土木学会の実態をよく見ないまま、東電や政府のこれまでの言い訳を鵜呑みにした間違ったものに思われる。
 第一に、土木学会は、規制に口をはさむ資格がない。学会の基準を原発の規制に使うときには、公正な手続きを経ているか、法律が求める安全性能を満たしているか、などを保安院がチェックしなければならない。土木学会は1990年代から原発の津波想定を検討してきているが、その基準(土木学会手法)について保安院は一度も精査したことがない。
 「議決の要旨」は、土木学会手法が「保安院等の規制当局による安全評価にも活用されるようになっていた」とも述べているが、土木学会手法が正規の手続きを経ることもないまま規制に使われていた実態が、そもそも違法状態だったことを無視している。
 第二に、土木学会は、ある特定の領域で津波が発生するかどうか、地震学的な判断する能力は十分ではない。土木学会の津波評価部会はメンバーの多くが電力会社の土木技術者で、地震学の専門家ではないからだ。同部会に所属する数少ない地震学者であった佐竹健治・東大教授は、津波がどこで起きるかについては土木学会で議論しておらず、その点については地震本部の長期評価の方が優れていると、昨年11月に千葉地裁で証言している。

 第三に、土木学会は電力会社の意向と違う結論が出せない組織だったことだ。そもそも土木学会の津波評価部会は、電力会社の研究成果を権威づけるために設置され、部会の費用もすべて電力会社持ちだった。津波評価部会の幹事だった電力中央研究所の所員は、政府事故調の聴取に「事業者(電力会社)に受け入れられるものにしなくてはならなかった」と証言している。
 東電や政府は「土木学会の検討内容に従っていた。だから我々に責任はない」と事故後一貫して主張し、東京地検もそれに沿って不起訴とした。
 検審には、それが真実なのかきちんと調べて欲しかったが、土木学会を利用して責任逃れをしてきた構図を見抜けなかったようだ。