2019年に全員無罪判決を出した東京地裁(永渕健一裁判長)は、指定弁護士や告訴団・支援団の度重なる要請にもかかわらず、一度も現場検証を行いませんでした。
事件の全容を正しく理解するためには、現場検証は欠かせません。
告訴団・支援団・告訴団弁護団は3月8日、東京高裁に対し、「東京電力福島原発事故刑事訴訟の現場検証等に関する要請書」を提出し、高裁前アピールと記者会見を行いました。
原発が津波に襲われ、爆発を起こした敷地内や、多くの被害者を出した双葉病院や搬送ルート、避難指示が出された地域などの現場を検証することは、被害の実態をつぶさに把握し、刑事責任の深刻さを裁判所が認識するために必要不可欠です。
控訴をした指定弁護士は、控訴趣意書を2020年9月11日に東京高等裁判所に提出しました。今後、被告人側の答弁書が提出された後、裁判が開始される予定です。
事件番号 令和元年(う)第2057号
令和3年3月8日
東京高等裁判所 第10刑事部 御中
裁判長 細田啓介殿
福島原発刑事訴訟支援団
福島原発告訴団
福島原発告訴団弁護団
東京電力福島原発事故刑事訴訟の現場検証等に関する要請書
日頃の活動に敬意を表します。
私たちは、東京電力福島第一原発事故により強制起訴された、勝俣元会長ら東京電力旧経営陣3被告人の業務上過失致死傷事件で、被告人らを告訴・告発した福島県民などからなる団体です。事故から約10年経っても原子力緊急事態宣言が解除されていない中、刑事裁判を通じて、東京電力福島第一原発事故の真相と刑事責任の所在が一日も早く明らかになることを願うものです。
東京電力は、政府の地震調査研究推進本部の長期評価に基づき、15.7メートルの津波高を予測して、対策として防潮堤の工事などを検討しながら、武藤被告人ら経営陣の判断でこれを先送りにした結果、過酷事故を起こし、双葉病院の患者さん44名はじめ多くの人々を無念の死に追いやりました。
しかし、平成28年2月に強制起訴された3被告人の業務上過失致死傷事件では、令和元年9月19日に3被告人らいずれも無罪とする判決が言い渡されました。しかも、原審では、原発の現場検証は一切実施されませんでした。
この歴史的大事件について正確な判断を下すためには、原発事故の実態とその甚大な被害を正確かつ具体的に把握することが必要不可欠です。そして、今も高レベルの放射能汚染が継続している緊張感の中、現地で被害の深刻さ等を目の当たりにする現場検証こそが原発事故の実態把握にとっての最良証拠となります。東京電力や国の責任を認めた仙台高裁の生業訴訟及び東京高裁の千葉・原発避難者訴訟でも裁判官が現地を直接見ています。
1号機原子炉建屋並びに3号機原子炉建屋で水素爆発が起き、それによって飛び散った瓦礫に接触するなどして傷害を負った被害現場、また、原子力発電所から南西約4.5キロメートルに位置する医療法人博文会双葉病院と南西4キロメートルに位置する医療法人博文会介護老人保健施設ドーヴィル双葉の患者や入所者が2度の爆発によって避難を余儀なくされ、その避難の過程ないし搬送先で、次々と尊い命が奪われましたが、その施設や搬送先、搬送先までのルート、さらに、避難指示が出された住民等の暮らした居住地などの現場を検証することは、被害の実態をつぶさに把握し、刑事責任の深刻さを裁判所が認識される上で必要不可欠と考えます。
私たちは、東京電力福島第一原発事故の原点に立ち帰り、本件事故被害者が傷害を負った現場や尊い命が奪われた44名が治療・看護を受けていた現場などを是非、現場検証などの手段で、見分していただくことを要請します。よろしくご検討をお願いします。
以上