2018年7月4日水曜日

第15回公判報告

2018年6月15日 第15回公判期日報告

作成 佐藤真弥、大河陽子、海渡雄一
(この公判報告は、三名のメモを付き合わせ、最終的には海渡の責任で作成した)

証人 今村文彦氏

内容
第1 主尋問
  1. 証人の経歴
  2. 土木学会と『津波評価技術』との関与
  3. 長期評価について
  4. 土木学会の重みづけアンケートについて
  5. 茨城沿岸津波浸水想定検討委員会について
  6. 延宝房総沖の地震について
  7. バックチェックルールと津波
  8. 東電担当者(高尾ら)への相談
  9. 第四期土木学会津波評価部会について
  10. 東日本太平洋地震のメカニズム
  11. 敷地の南北に建屋全体を覆う防潮壁をつくるべきだった
  12. 推本の長期評価は無視できない
  13. 裁判長質問
第2 反対尋問
  1. 専門と経歴
  2. 土木学会津波評価技術について
  3. 津波地震の発生メカニズムと付加体の役割
  4. 日本海溝軸の付加体の堆積状況について
  5. 長期評価についての感想
  6. 1611年慶長三陸沖地震について
  7. 長期評価の信頼性について
  8. 中央防災会議における検討について
  9. 茨城沿岸津波浸水想定検討委員会について
  10. 耐震バックチェックルールと長期評価
  11. 土木学会に検討を委ねた方法の相当性について
第3 指定弁護士再主尋問(弁護人主尋問に対する反対尋問)
  1. 津波地震のメカニズムについて
  2. 推本の議事録は検討していない
  3. 中央防災会議は一般防災を担当する場
  4. 推本の長期評価についてどのように対応するべきだったのか
第4 裁判官尋問
第5 証拠申請

(PDFで読む)


弁護人7人 指定弁護士5人 被害者代理人2人
(凡例… 指:指定弁護士資料 弁:弁護人資料)

開廷
裁判長:甲A252・253、同意ということで採用します。
弁156、同意ということで採用します。
久保内:甲A252、原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会 地震・津波、地質・地盤合同WG、H20.3.27 今村氏はAグループで、福島第一と東海第二も担当している。
甲A253、地震・津波、地質・地盤合同WG Aサブグループ名簿 今村氏の名前がある。
宮村:弁156、証拠一覧9Pに本日43番を追加した。
出力報告書 慶長三陸のシミュレーション。相田勇。
裁判長:では証人尋問に入ってよろしいでしょうね?

証人入廷
宣誓
裁判長:決まりですので申し上げますが、いま、証人に宣誓して頂きました。もし証人がわざとうそをつきますと、刑事罰に問われる場合がありますので、ありのままお答えください。
それと2点ほどお願いがあります。おもに弁護側、検察官側、横の方から質問をいたしますが、出来るだけ前を向いて、マイクに向かって答えて下さい。それと、一人の人間で記録を取る都合上、質問が終わってから答えるように、質問と答えがかぶらないようにお願いします。専門用語などあろうかと思います。急ぐ必要はありませんので、ゆっくりとお答えください。
では。

第1 主尋問

1 証人の経歴

久保内:現在の所属を。
今村:東北大学の津波工学研究室。
久保内:災害科学国際研究所の所長もやっている?
今村:はい。津波工学から、津波の遡上や被害について調べている。
久保内:一番長く所属していたのは?
今村:東北大学です。
久保内:経歴書の内容を確認してください。
今村:大丈夫です。
久保内:主に東北大に勤めていた。経歴書には記載されていないが、行政関係は?
今村:内閣府、文科省、国交省など。
久保内:地震本部の津波評価部会長や、地震調査委員長もやっていた?
今村:はい。2008年か2009年に委員になった。
久保内:内閣内の中央防災会議の専門調査会の委員にもなった?
今村:はい。被害想定について担当しました。

久保内:保安院のバックチェックの専門委員だった?
今村:はい。地震随伴事象を津波専門家として扱った。
久保内:委員会の名称は?
今村:耐震バックチェック等……何だったか……
【指25-2 地震・津波、地質・地盤合同WG】
久保内:ここにいたか?
今村:はい。
【指25-3 地震・津波、地質・地盤合同WG Aサブグループ】
久保内:ここにもいたか?
今村:はい。
久保内:証人はバックチェックの審査に関わっていた?
今村:それぞれのサブグループで審査していた。
久保内:主にどこの原発を担当した?
今村:福島第一・第二、東海第二。
【指24 地震・津波、地質・地盤合同WG サブグループ】
久保内:証人の名前がある。
今村:はい。
久保内:泊や伊方、東海再処理施設も?
今村:はい。

久保内:専門について聞く。津波工学ということだが?
今村:津波発生から伝播、沿岸部の影響まで、被害までを調べる。技術的に何ができるか。防潮堤なども検討する。
久保内:理学系、理学的な知見については?
今村:基礎として理学的な知見がいる。私も学んでいる。
久保内:理学系の専門家は他にもいた?
今村:はい。
久保内:理学系の専門家と一緒に審議していた?
今村:はい。
久保内:専門家の名前を挙げてください。
今村:都司(嘉宣)先生、佐竹(健治)先生。
久保内:都司先生はどのような方か?
今村:東大地震研の方。地震・津波の専門家で、特に歴史地震に詳しい。幅広い知見を持っている。
久保内:佐竹先生は?
今村:佐竹先生も、地震だけでなく津波も詳しい。インバージョン、逆解析をして津波の発生メカニズムを調べる。

2 土木学会と『津波評価技術』との関与

久保内:証人は土木学会に所属している?
今村:はい。
久保内:どのような部会に所属しているか?
今村:原子力土木委員会の津波評価部会。
久保内:何をする部会か?
今村:原発のある沿岸の津波の評価をする。
久保内:どういう人々が委員にいるか?
今村:地震や津波を専門分野とする方。電気事業者の従業員など。
【指1 津波評価部会 委員名簿】
久保内:首藤(伸夫)さんはどんな方か?
今村:津波工学。土木工学や歴史地震の知見も有している。
久保内:証人との関係は?
今村:大学の学部4年から大学院での指導教授だった。
久保内:阿部(勝征)さんはどんな方か?
今村:地震と津波、特に津波地震に知見を有している。

久保内:津波評価部会の第一期は何をしたか?
今村:原発の安全に関して、津波をどう評価するか。発生から沿岸部の影響までの評価。断層パラメータでどう予測するかの基本的な資料をまとめた。
久保内:成果を出した?
今村:はい。まとめました。
久保内:『津波評価技術』か?
今村:はい。
久保内:どういった経緯で津波評価部会に参加した?
今村:大学で数値解析を研究していた。
【指2 2枚目 津波評価技術】
久保内:証人も関わった?
今村:第5章・数値計算と、第3章・第4章の一部。
久保内:証人の論文が参考資料にある。
【指2 3枚目 津波評価技術】
久保内:証人の論文が3つある。数値計算に関するものか。
今村:はい。
久保内:津波評価技術について、あらためてどういうものか説明を。
今村:地震起源の津波について、過去の地震をどのように再現できるか、将来どのように起こるか、数値解析をする。地形などの情報をどう入れるかが論点となる。
久保内:評価の前提の研究、もとになった研究は?
今村:電共研で専門家が体系化した。
【指1 津波評価部会 工程表】
久保内:「電共研高度化研究」がいま言ったものか?
今村:はい。
久保内:平成10年8月から(検討を始め)、平成11年11月から高度化研究として津波評価技術の策定が始まったのか?
今村:はい。
久保内:設計津波の評価はどのように決めるのか?
今村:断層パラメータから伝播計算をし、沿岸部の津波高さを計算する。痕跡高を再現できる。信頼性を高いのものにする。不確定性はパラメータスタディで反映する。
【指3 津波評価技術 フローチャート】
久保内:このようなことか
今村:はい。
久保内:既往津波の再現性の確認とは?
今村:想定津波にパラスタ(パラメーター・スタディ)をして、比較する。第二段階。
久保内:設計津波水位の評価とは?
今村:沿岸津波高さ水位が原発の想定水位を上回るかをチェックする。
久保内:具体的な数値をどのように扱うか?
今村:最大に影響する(津波の)高さにどのように対応するか。ハードの対策か、ソフトでか。原発においてはハードが中心で、原発に波を入れない対策を検討する必要がある。
久保内:原発は津波の浸水にどう対応するのか?
今村:できるだけ原発サイトに入れない、防潮堤などで、ドライサイト(波を入れさせないこと)で対応する。

久保内:波源域は、日本海溝沿いの領域を設定したか?
今村:はい。
【指4 津波評価技術資料編2-59の図】
今村:上の図が、既往津波の痕跡高を説明できる断層モデル。1611、1677、過去400年程度の津波。
下の方は、断層モデルのマグニチュードを推定した表。1611も含む。詳しい断層パラメータが無いものも含む。
久保内:海溝沿いは(領域の番号)三陸沖の3と4と、房総沖の8。福島沖は空白だが、福島沖は地震津波の検討はしたか?
今村:福島沖で大きな地震が起きていないということを示している。
久保内:福島沖では発生しないということか?
今村:過去の地震の履歴だ。沈み込み帯など、そこまでの議論はしていない。この時点でそこまでは評価していない。推定できる最大のものを示した。
久保内:個別の領域について議論したか?
今村:話題には出ていた。
久保内:津波評価技術では、想定津波の波源の設定について、プレート境界はどう評価したのか?
今村:発生の可能性があり、それが否定できないものを(評価した)。
【指? 津波評価技術 4.3.2】
久保内:(1)評価対象の下2行、「地震地帯構造の知見を踏まえて」この「知見」は取り込んでいる?
今村:はい。常に科学技術は進歩する。
久保内:新しければどんな知見も取り入れるのか?
今村:いいえ。学会の発表だけのものと査読のあるものなら後者の方を優先する。
久保内:査読のある論文、レビュー論文というものか?
今村:はい。
久保内:なぜレビュー論文は信頼性が高いのか?
今村:同じ分野で違う専門家が見て、論理としておかしくないと結果が出たものだからだ。

3 長期評価について

久保内:長期評価について聞く。
証人も関わったか?
今村:地震調査委員会の委員だった。
久保内:長期評価とはどういったものか?
今村:最終的には地震調査委員会が出すが、下に部会があり、また委員会で議論したり、さまざまデータを出して議論する。
久保内:多数の専門家の目を通して評価をすると?
今村:はい。
久保内:レビュー論文と同じやり方か?
今村:それに相当する。
久保内:2002年に長期評価を発表したことは知っていたか?
今村:当時はメンバーではないが知っていた。
久保内:どのような内容だと思ったか?
今村:過去400年に3回、明治三陸タイプの地震が起きた。海溝沿いどこでも起きると。
久保内:(当時の)知っている専門家委員は?
今村:島崎(邦彦)先生、都司先生。
久保内:島崎さんはどんな方か?
今村:地震、特に歴史地震の専門家と思っている 。
久保内:先ほど長期評価はレビュー論文と同じだと言われた。三陸から房総沖についてもか?
今村:(地震本部という)組織としては信頼性が高いが、個人的には違和感を感じた。
久保内:違和感とは?
今村:当時は、「根拠がわからない」「疑問が多い」と感じた。
久保内:証人が「疑問」をもったということは、津波評価技術で取り入れようとするとき、無視してよいものか?
今村:無視して良い知見ではないと考えた。

4 土木学会の重みづけアンケートについて

久保内:土木学会の重みづけアンケートを、第二期・第三期で行った?
今村:はい。
久保内:第二期のアンケートは、どういったものか?
今村:長期評価の、どこでも起きると、南北に分けたものとではなかったか?
【指7 重みづけアンケート H16年(1回目のアンケート)】
①JTT2(福島沖)は活動しない ②どこでも起こる の2択
久保内:どう回答したか?
今村:②を重くつけた。
久保内:①が0.4、②が0.6とつけた。
今村:はい、そうですね。
久保内:この理由は?
今村:①と②は選びにくいなと。①と②の間であったり、メカニズムは複雑で、選ぶのが難しい。長期評価の結果などから、②にウェイトを置いた。
久保内:2回目の平成21年のアンケートはどうつけたか?
今村:①②の発展形で、北と南に分けて。
【指8 重みづけアンケート H21年(2回目のアンケート)】
①三陸と房総のみ起こる ②どこでも起こるが南部はすべりが少ない ③どこでも起こり、同じすべり量
久保内:証人はどのように?
今村:②の可能性が高いとした。
久保内:①が0.3、②が0.6、③が0.1。この理由は?
今村:当時の検討で、海底地殻構造を解析や歴史津波の状況から、三陸沖北部と福島沖で同じとは思えない。①は固有地震のみ。しかし違う所でも起こるかもしれない。③については否定的に考えていた。
久保内:②が一番いいと?
今村:はい。
久保内:②は福島沖でも起こるということか?
今村:はい。可能性が否定できない(ので福島沖でも起こる可能性があると考えた)。

5 茨城沿岸津波浸水想定検討委員会について

久保内:証人は茨城沿岸津波浸水想定検討委員会の委員だった?
今村:はい、副委員長でした。
久保内:他にはどんな方が?
今村:地元の茨城大の三村氏が委員長で、他に佐竹先生などがおられた。
久保内:何か調査をしたか?
今村:延宝房総沖の痕跡のデータを見るため。
久保内:論文が出た?
今村:はい。
久保内:他の専門家は?
今村:都司先生、佐竹先生。
【指9 延宝房総沖地震津波の~痕跡高調査 2007】
久保内:どういった論文か?
今村:あらためて歴史資料によって、当時の被害の程度からどこまで浸水したかを、津波痕跡高の調査から推定した。
久保内:歴史資料はどういった意味合いがあるか?
今村:非常に重要。いつ起きたかや、被害状況がわかると、発生メカニズムがわかることがある。
久保内:第一人者は?
今村:都司先生。それから亡くなった羽鳥(徳太郎)先生。
久保内:図2は何を示しているか?
今村:地震によって発生した水位と地殻変動。インバージョンをし、すべり量を南と北で分けた。
久保内:茨城県ではどう生かされたか?
今村:沿岸部の波高は(茨城県の)ハザードマップに取り入れた。茨城県では延宝房総沖を想定津波とした。
久保内:茨城県の想定津波について、報告書では明治三陸と延宝房総沖を想定した?
今村:はじめは2つ想定した。
【指10 2枚目 図2-4-1】
久保内:波源の位置は?
今村:延宝房総沖は、この委員会で新たに置いた。明治三陸は長期評価や佐竹先生のモデルを使って想定した。
【指4 津波評価技術 波源モデル】
久保内:『津波評価技術』では8が延宝房総沖の波源。茨城県(報告書)と比べると異なるのか?
今村:当時いろんなレベルで調べた。茨城県は痕跡高から逆解析をした。当時茨城県の図の方が広い領域が波源と成り、信頼性が高かった。
久保内:茨城県の方がより進んでいた?
今村:はい。私はそう思う。

6 延宝房総沖の地震について

【指9 6枚目 波源図】
久保内:延宝房総沖について証人の考えは?
今村:2つの地震だ。上(北側)は津波地震。下(南側)は逆断層地震で普通の地震。二つの性質を持つと考える。

7 バックチェックルールと津波

久保内:バックチェック(BC)について聞く。バックチェックルール(BCR)で想定すべき津波は?
今村:原発への影響があるもの。可能性が低くても影響があるもの。
【指6 保安院文書 改訂耐震設計審査指針】
「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波」
久保内:津波評価技術の評価対象とBCRのものとは全く異なるか?
今村:実質的には同じだと思う。可能性はあっても否定はできないものは評価する。
久保内:土木学会の考えでもあり、BCRの考えでもあると?
今村:はい。
久保内:BCの問題意識は何か?
今村:地震のゆれが中心だったが、津波や地すべりを入れた。津波高さがどのくらい影響するか。取水、水位低下は重要なポイントとなった。

8 東電担当者(高尾ら)への相談

久保内:BCの公平性・中立性について。東電社員から個別に相談を受けていたが、何に気をつけるように言ったか?
今村:津波解析は専門家が少なく、信頼性が出ないときがある。最低限クリアしてほしいものを、東電に限らずアドバイスしていた。
久保内:結論を言ったのか?
今村:それはバックチェックのこと?
久保内:高尾さんと相談したか?
今村:はい。
久保内:回数は?
今村:複数回。
久保内:どんな相談だったか?
今村:土木学会のことやBCについて。いろんな知見について。
久保内:平成20年2月26日に高尾さんと会ったか?
今村:はい。
久保内:どういう目的で?
今村:土木学会のことや、バックチェック、数値解析について。
【指12 2008.2.18 高尾発メール】
久保内:受け取った記憶はあるか?
今村:ある。
久保内:バックチェックに新知見を取り入れる件か?
今村:はい。
久保内:高尾さんにはどういう説明を?
今村:詳しくは……。推本の評価結果や津波評価技術についてか?
久保内:高尾さんの考えは?
今村:こういうものがある、と。
【指13 今村相談議事録】
「決定論で取り入れる」
久保内:資料はあったか?
今村:様々あったので、あったと思う。
久保内:「バックチェックで推本を考慮する必要性高い」「検討する場合は三陸北部から房総沖どこでも」これについての資料は?
今村:あったと思う。
推本の結果は無視できない。今後影響を与える。結果の解析、波源の設定をどうするか。津波堆積物の研究をしろと。
【指13】
「初期 推本 コメントできない」
「中防は結論出さなかった」
「私は福島沖を否定できない。波源は明治三陸と延宝房総沖を使え」
久保内:平成20年10月28日に高尾さんに会ったか?
今村:はい。試算の結果や、BCの方向性を報告するのだろうと。
【指14 今村相談議事録 H20.10.28】
高尾「3年程度かけて電共研で」「今回のBCは、H14の青本で」
久保内:東電の方針を伝えられた?
今村:はい。
【指14 1/2】
久保内:福島第一、第二原発の津波評価の「新知見」に推本の知見が無い。
【指14 2/2】
想定津波は概略でO.P.5~6m程度
久保内:どうコメントした?
今村:計算条件はおかしくない。想定津波は妥当と言った。
【指14 今村相談議事録】
久保内:こんなコメントがある。証人が、推本の津波、明治三陸タイプは考慮しなくてもよい、と言った。方針に問題はないと?
今村:解析上は問題ないだろうと。

久保内:平成22年にも高尾さんに会ったか?
今村:土木学会やバックチェックのことだと思う。
【指15 今村先生 説明メモ H22.11.25?】
1.貞観 2.日本海溝
久保内:2つあった?
今村:はい。
久保内:2番について、推本について。サモア(2009)とメンタワイ(2010)の津波もあって、佐竹先生や谷岡先生に意見を聞いてはどうかとあるが?
今村:どういうエリアで繰り返しがあるのかと。発生メカニズムの研究途上だった。当時しっかり解析はしていたが、これらのことは地震の専門家に聞きたいと。
久保内:理学の専門家の意見を聞きたいと?
今村:はい。

9 第四期土木学会津波評価部会について

久保内:土木学会の津波評価部会で、第四期は何を?
今村:確定論から確率論のモデルへと。流れ、波力、遠地津波、地震由来でない津波など。
久保内:2002年の津波評価技術は確定論。それを改訂する議論か?
今村:はい。
久保内:平成22年、津波評価部会の幹事団からどのような提案が?
今村:日本海溝沿いの領域を北と南に分けると。
【指15-1 平成22年度 第2回 津波評価部会 議事録 資料3】
波源モデルに関する検討 –日本海溝沿い海域の波源域について–
【指17-1 波源モデル P512まとめ】
三陸から房総沖海溝沿い、北部と南部を分割
どこでも起こるが、南部は1677モデル
久保内:平成21年の重みづけアンケートの②と同じ内容か?
今村:はい。
久保内:幹事団の提案はどうなった?
今村:提案に対して、否定も疑問も出なかった。
久保内:証人も賛成した?
今村:はい。

10 東日本太平洋地震のメカニズム

久保内:今回の地震(3.11)のメカニズムはどう思う?
今村:M9の地震、津波地震と逆断層タイプ。貞観のタイプ。もっと複雑なメカニズムなのだが、大きな理解では、津波地震と逆断層だ。福島では(最大)17mの波だった。
久保内:波源で最も大きな影響を与えたのは?
今村:福島第一沖のやや北、福島沖と宮城沖の境。複雑な影響があった。
久保内:日本海溝寄りか?
今村:はい。
久保内:福島沖でも津波地震が起きたと解釈できるか?
今村:はい。
久保内:津波対策について聞く。ドライサイトにするにはどうするか?
今村:基本的には、沿岸の波の高さを評価し、壁、防潮堤を造る。これは沿岸部の場合。陸側にできれば高さは下げられる。
久保内:津波高さは、浸水深の分布図かあれば決められるか?
今村:はい。

11 敷地の南北に建屋全体を覆う防潮壁をつくるべきだった

久保内:(1Fにおける)明治三陸モデルの想定高さは?
今村:15m。
久保内:いつ聞いた?
今村:平成20年の打ち合わせの中か、どこかで会ったときに。
久保内:前後関係は分かるか?
今村:2月から10月の間だ。
久保内:(1Fの)どこの高さかなどの説明はあったか?
今村:詳しい浸水分布は記憶にない。福島第一の防波堤の図は記憶がある。その前後で大きくなっていた。
【指18 15.7m最大高さ分布】
久保内:記憶は?
今村:当時の記憶では見ていない。その後に見た。
【指19】
久保内:参考になる図か?
今村:はい。
久保内:どういうことが言えるか?
今村:遡上計算もしている。O.P.17mを防ぐ施設を置く。置いたときの計算をしないと。これを基に防潮堤の位置を評価する。
【指20 図1-1 10m盤に10m鉛直壁の図】
久保内:これから何が言える?
今村:少し内陸側に壁がある。ここでの数値解析で高さも見たと思う。
久保内:どのような結果か?
今村:1~4号機は10m以下。
【指18】
久保内:証人としては、どこに鉛直壁を作るべきと思うか?
今村:敷地が狭く、施設が混在しているが、一番ベターなのは沿岸部。そこからどのくらい内陸側にするかがポイントだ。
久保内:ドライサイトにベストなのは?
今村:建屋手前が最低限必要。
【指23 津波評価点 (1F平面図)】
久保内:防潮堤を造るべきところに線を引いてください。
今村:(作図)
これは今村証人が作図したものを証言直後の会見の際に、
被害者代理人である弁護士海渡雄一が再現した図面である
久保内:福島第一を実際に見たことはあるか?
今村:一度ある。防波堤は(見た時と図面が)同じ。あまり敷地は高くない。オープンなエリアにある。
防潮堤は南と北に20mを、建屋の前には少し低いものを造ればよかった。高さについては議論があるが、ある程度の高さで津波の越流は防げた。

12 推本の長期評価は無視できない

山内:山内からお聞きします。証人は先ほど、津波評価技術に取り込む知見について、長期評価については「無視はできない」と言ったが、その意味は、「取り込むべき知見ではある」ということか?
今村:推本の知見は無視はできない。内容に疑問はある。当時悩んだ。試算して、どの程度影響があるか。そのうえで、入れるかどうかプライオリティをつけようと。
山内:第一段階として考慮はするが、検討は様々あるということか?
今村:そう。ある程度絞り込む。発生の可能性があるかどうかがポイント。
山内:証人は先ほど、15.7mを前提に防潮壁の線を引いた。防潮壁の位置は、1~4号機の前面にもあった。高さについての議論は、高さはどんなことを検討するのか?
今村:(福島第一港湾の)防波堤がある。津波の周期によっては、共振・増幅する場合がある。それも考えに入れて設置するのがいい。
山内:増幅というのは、防波堤の中で増幅すると高くなる場合があるということか?どういう根拠でそうなるか?
今村:波が狭いところから入ってくる。それが反射する。戻っていくところにまた入ってくる。振動してしまうと増幅する。ブランコで、押すタイミングがうまいと大きくなるように。
山内:福島第一の北と南のみならず、防波堤の中も(防潮壁を)そうとう高くする必要があると?
今村:はい。
山内:以上です。

13 裁判長質問

裁判長:最後の話を明確にしたい。資料23を映して。先ほど(今村証人が赤線を)書き込んだものを示して下さい。
【指23 (1F平面図)】
裁判長:防波堤の中で波が増幅するという、防波堤というのは、海側の、三角に突き出ているところのことか?
今村:はい。
 

第2 反対尋問

1 専門と経歴

宮村:宮村から質問します。津波工学が専門とおっしゃったが、他に専門は?
今村:自然災害科学。災害の仕組みと軽減策について。
宮村:地震学についての知見を収集していたか?
今村:はい。津波工学の対象についてなので。入力情報となるので。
宮村: 論文も読んでいる?
今村:一通り目を通している。
宮村:地震調査委員会や、地震本部の津波評価部会に所属していた?
今村:はい。
宮村:地震学会に所属しているか?
今村:はい。
宮村:地震の専門家とも交流があるか?
今村:はい。

2 土木学会津波評価技術について


宮村:土木学会(津波評価部会)の第一期、地震学者が3人いるというのは、阿部勝征先生、岡田義光先生、佐竹健治先生か?
今村:はい。
宮村:津波評価技術にも断層モデルがあった?
今村:はい。
【弁1-1 津波評価技術 本編表紙 H14.2】
宮村:抜粋してお尋ねします。
【弁1-2 津波評価技術 本編 P1-31】
4.3.2プレート境界付近に想定される地震に伴う津波の波源の設定
(2)基準断層モデル
宮村:モデルはどう設定するのか?
今村:当時の知見によってモデルを設定した。
宮村:また本編から抜粋してお尋ねします。
【弁1-3 津波評価技術 本編】
【弁2-2-1 津波評価技術 本編 P1-59】
本編参考資料1 基準断層モデルの設定方法-日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿い-
【弁2-2-2、2-2-3 津波評価技術 本編 P1-60】
本編参考資料2 基準断層モデルの設定方法-南海トラフ沿い-
宮村:この図は本編の参考資料か?
今村:はい。
宮村:津波評価技術が策定された時点で、この資料を津波評価部会が要求し、これが承認されたと?
今村:はい。
宮村:これ以外のモデルは審議されていないのか?
今村:はい。データがそろっていないので。
宮村:それで、これらが承認されたと?
今村:はい。過去起こった地震なので。

宮村:第二期と第三期で「確率論的津波ハザード解析の方法」を策定した。重みづけアンケートも行った?
今村:はい。
宮村:第四期では波源の議論をしたか?
今村:はい。
宮村:第一期から第四期までをもって津波評価技術を改訂すると。審議の流れは考え通りだったか?
今村:はい。まず過去起こったものについて取り上げる。起きていないものは難しい。ロジックツリーなど確率論でやろうと。
宮村:あらためて、(従来の津波評価技術の)決定論で評価していたのは合理的だと?
今村:はい。
宮村:その過程で3.11を迎えたということか?
今村:はい。

【弁3-1 津波評価技術 付属編 表紙】
【弁3-2 津波評価技術 付属編 表1.3.2▲1 P2-53】
表1.3.2▲1 津波痕跡高との比較を実施している断層モデル(日本海溝沿いおよび千島海溝(南部)沿い海域
宮村:日本海溝沿いは、一番古いのが1611慶長三陸、津波評価技術では日本海溝沿いは1611までさかのぼって検討された?
今村:はい。
宮村:3.11以前は、プレート間地震はどのくらいの間隔で起こると考えていたか?
今村:一般的に100年から150年と。南海トラフはそうだった。日本列島としての傾向で、三陸沖から房総沖もそうではないかと。
宮村:海のプレートは年間5から8cm沈みこんで、その後解放される。それが100年から150年だと?
今村:なぜかと言うのは難しいが、そういう傾向がある。

宮村:津波評価部会は、電気事業者の従業員がメンバーに参加している?
今村:はい。
宮村:中立性が歪められたのではという指摘はあったか?
今村:色々、事故後にあったと聞いているが、根拠のあるものではない。津波を評価し低減する技術には(電気事業者の)現場の評価、担当者の感覚が必要だ。
宮村:津波に伴って砂が移動することがある。砂で原発の設備が阻害されないか?
今村:あり得ます。
宮村:その対策を、電気事業者の従業員なしで出来るか?
今村:できません。
宮村:津波評価技術で、内容が歪められたり、甘くなった場所はあるか?
今村:考えられません。

休廷 11:41
再開 13:13

3 津波地震の発生メカニズムと付加体の役割

裁判長:ちょっと早いですが、そろったようなので始めます。
弁護人側主尋問
宮村:引き続き宮村からお聞きします。津波地震のメカニズムについて。
【弁11-1 「津波地震の発生メカニズム」『月刊地球』 谷岡・佐竹論文表紙】
【弁11-2 「津波地震の発生メカニズム」谷岡勇市郎・佐竹健治 2003】
図2 模式図

宮村:この堆積物とは、付加体か?
今村:はい。
宮村:どういう内容か?
今村:海側プレートが右から左に(東から西に)沈みこんでいく。その柔らかい部分、柔らかいところが(プレート境界の)中に入らず、入り口にたまる。
宮村:プレートの柔らかい部分が摩擦で削り取られると?
今村:摩擦か、圧力かはべつとして、そう。
宮村:沈み込む動きに伴って、ということか?
今村:はい、そうです。
宮村:付加体の硬さの特徴は?
今村:他より非常に柔らかい。
宮村:津波地震とは、ゆれが小さくて波が大きい地震のことですね?
今村:はい。
宮村:付加体と津波の関係は?
今村:堅いところのゆれと柔らかいところのゆれは違う。堅いところは短周期でゆれが強い。柔らかいところは長周期でゆれが弱い。柔らかい、弾力があるところが、波が大きくなる。
宮村:柔らかいところは大津波が起こる?
今村:海底を持ち上げる効果が違う。
宮村:つまり、海溝軸の付加体は、ゆれが小さくなる原因となり、波を大きくする原因となると?
今村:ゆれを小さくする効果と、波を大きくする効果がある。
宮村:付加体とゆれ、波の大きさについて研究されたのは誰か?
今村:谷岡先生、佐竹先生。海外の研究者もいる。
宮村:津波発生メカニズムの代表的なものか?
今村:はい。
【弁4-1 谷岡・瀬野徹三論文 表紙 2001 Geophysical Research Letters,vol.28】
宮村:先ほどと同じ、付加体の模式図がある。
【弁4-3 和訳】
宮村:要旨では、1896の甚大な津波地震は付加体の下で起きたと判明、海溝近傍の付加体が隆起したと。
これは津波地震と付加体の関係を示した論文か?
今村:はい。
宮村:谷岡・瀬野論文は2001年の論文。このころから分かっていた?
今村:はい。1992年のニカラグアの地震は津波地震と言われている。過去何例かあった。
宮村:それはごく一部の学者しか知らないものか?それとも広く共有されていたことか?
今村:後者だ。ただ、違うメカニズムも考えられていた。プレート境界に付加体が入り込み、グリースのような働きをしていたと。ただし、これでは大きな津波が起こる説明にはならない。分岐(断層)が低角度で動くから。高角度で動くと波が大きくなる。ゆれの小ささと波の大きさは付加体が大きな役割をしている。
宮村:ゆれが小さく、波が大きくなる理由は、付加体が代表的に考えられると?
今村:はい。
【弁9-1 『月刊地球』 阿部論文表紙】
【弁9-3 「津波地震とは何か―総論」『月刊地球』阿部勝征 2003.5】
【弁9-2 (最後のところ)】
谷岡ほか2001「未固結堆積物」、谷岡・瀬野2001
宮村:これは付加体のことを説明している?
今村:はい。
宮村:阿部先生はどんな人か?
今村:過去の地震から当時まで最も精力的に研究した方。
【弁9-4】
「付加堆積物のテクトニクスや物性に関連づけて説明が大勢」
宮村:これも同じ考えか?
今村:はい。
宮村:今はどう考えられているか?
今村:津波地震は付加体が重要。今も変わっていない。

4 日本海溝軸の付加体の堆積状況について

宮村:海溝軸の付加体は、堆積状況が北と南で違いはあるか?
今村:実際の調査結果がある。ジャムステックの研究で。
宮村:ジャムステックというのは、JAMSTEC、「海洋研究開発機構」のことですね?
今村:あ、はい、そうです。
宮村:北と南で違いは?
今村:違いがあったという論文がある。
【弁5-1 「日本海溝境界における島弧方向のプレート境界の構造変化:そのプレート間カップリングに及ぼす意味」鶴哲郎ら 2002】
【弁5-2】
【弁5-4】図4 ライン5が日本海溝三陸北部の断面
【弁5-5】図9 ライン11が日本海溝福島沖の断面
宮村:6の図は、左が陸のプレートで、右が海のプレート。弁護人資料5の4の図4は、日本海溝北側の断面図。付加体はどのあたりか?
今村:図の中央。色の薄い領域。明確に見える。
宮村:図9と比べて付加体の堆積状況は?
今村:南側は付加体がほとんどなく、プレート境界に沿って見られる。
宮村:北は顕著に見え、南は顕著には見られないということか?
今村:はい。
宮村:付加体があるかないかでどう違いがあるか?
今村:北は波が大きくなるメカニズム。南は、ゆれは小さい。波が大きくなる付加体がない。
【弁5-4】
宮村:海のプレートが潜っている、プレート境界の違いは?
今村:北部は強く接触している。柔かい層(付加体)が奥まで入っていない。南部は固着が弱い。柔らかい層がプレート境界面に少し入っている。
宮村:図9、プレートの奥に入っているのがUnit Uか?
今村:それに相当する。
宮村:北は固着が強いからひずみがたまる。南は固着が弱く、ひずみがたまりずらいと?
今村:はい。
宮村:整理すると、北は、ひずみがずれると大きな津波を起こす付加体がある。南は、ひずみがずれると大きな津波を起こす付加体が無い。こういうことか?
今村:はい。
【弁5-6】図17
宮村:見たことはあるか?
今村:はい。
宮村:「低速度堆積ユニット」とは付加体のことか?
今村:はい。
宮村:この線は日本海溝か?
今村:はい、沈み込み帯です。
宮村:付加体の量についてどんなことがわかるか?
今村:非常に明確にわかる。付加体(のある図)を短い間隔で見られる。南は広く厚くなく堆積している
宮村:さっきの図と同じか?
今村:これは重要な図だ。重要な特性を示している。
宮村:この論文を示した機関は?
今村:JAMSTEC。当時は違う名前だったが。
宮村:平成14年7月31日公表の、地震本部の長期評価について聞く。
公表後まもなく内容を確認したか?
今村:拝見しました。
【弁6-1 長期評価 表紙】
【弁6-1 長期評価 9P】
表3-2 「根拠」欄

5 長期評価についての感想

宮村:三陸沖北部から房総沖の根拠の欄、M8クラスが1611、1677、1896の3回で、震源域は明治三陸モデル、領域内のどこでも発生する可能性があると「考えた」。どこでも「考えた」ということの根拠が示されていたか?
今村:非常に難しい。非常に違和感があった。どこでもという根拠は分からなかった。
宮村:長期評価で引用されていた論文に、付加体についてのものはあったか?
今村:書かれていなかった。
【弁6-? 長期評価 P15、P18】
宮村:長期評価18ページの(2)に、「同じ構造をもつプレート境界の海溝付近に、同様に発生する可能性がある」とある。長期評価は日本海溝を「同じ構造をもつ」と評価した?
今村:はい。
宮村:先生は「同じ構造をもつ」と考えたか?
今村:難しかったと思う。観測結果が重要だ。想定では(そのように評価するのは)難しい。
宮村:「同じ」の根拠については?
今村:違和感がある。1611の例で言うと、この地震・津波は複雑で、今もモデルの検討がされている。正断層ではないか、津波地震とは違和感がある。千島海溝の地震という説もある。
宮村:つまりこういうことか。1611が正断層の地震ではないか、震源域は千島ではないか、という議論があり、それに対する根拠が示されていないと?
今村:はい。

宮村:先生は地震学会に所属されていますね?
今村:はい。
宮村:地震学会での意見交換、ほかの先生はどうだったか?
今村:非常に議論が分かれていた。私は違和感を感じていた。島崎さんは支持していた。都司さんは正断層説だったが、逆断層の次に正断層が起こったという説になった。一人の研究者でも説が変わる。
宮村:どんな機会に聞いたか?
今村:学会とか、研究発表で。

宮村:指定弁護士の質問の中で、「無視できない」と答えたが、だから津波評価技術に取り入れないと、ということか?
今村:違う。対策にすぐには結び付かないが、推本だから精査はしないといけない。検討しないといけない。
宮村:「無視できない」ということの趣旨は、検討の俎上に乗せないといけないということか?
今村:そうです。
宮村:直ちに津波評価技術に入れなければ、と思ったか?
今村:いいえ、全く。無視はできないが検討はしないといけない。
宮村:検討は必要だと?
今村:そうです。さらに言うなら、福島沖、(日本海溝)南部で痕跡を調べて、信頼性のある解析をするべきだと。

【弁7-1 深尾・神定論文 表紙 1980】
【弁7-2】低周波Iゾーン?
宮村:これが長期評価で津波地震についての根拠になったと?
今村:そこまでは聞いていなかった。
【弁6-5 長期評価 P9】
表3-2 1611年、1677年、1896年の3回と判断
宮村:1611が日本海溝沿いの津波地震だというのは、研究者の一致した意見だったか?
今村:そうとは思えない。様々な意見があった。今もそう。
宮村:津波地震以外ではどんな考えがあるか?
今村:正断層の地震。逆断層の後に正断層の地震。千島沖の地震で津波が来たと。

宮村:指定弁護士の質問で、津波評価部会のアンケート、意見の違いがあるものについてだったと?
今村:2回答えた。協力した。

6 1611年慶長三陸沖地震について

【弁14-1 ロジックツリー】
【弁14-2 ロジックツリー Q1-6-3】
1611のメカニズム
宮村:アンケートの対象になったのはなぜか?
今村:統一的見解がなかったから。
【弁6-4 長期評価 P18】
P18(2)の参考文献に、相田1977(1611についての論文)がある
宮村:長期評価のP3に参考文献欄がある。相田勇1977「三陸沖の古い津波のシミュレーション」
【弁21 「三陸沖の古い津波のシミュレーション」相田勇1977】
宮村:読んだことがあるか?
今村:もちろん。
宮村:津波地震か正断層か?
今村:正断層と仮定して1933と対応させながら解析している。
宮村:P76に、1611は1933と同じ正断層と仮定したという記述がある。1611を正断層型と仮定した論文であると?
今村:はい。
【弁6-4 長期評価P18】
宮村:正断層としているか?
今村:相田論文は正断層として出した。津波地震としてはいない。

【弁8 『月刊地球』目次 2003.5 「総特集 三陸~房総沖津波地震--今後30年間に起る確率20%」】
宮村:今村先生も寄稿したか?
今村:はい。
【弁13-1 「慶長16年(1611)三陸津波の特異性」『月刊地球』都司嘉宣】
【弁13-2】
宮村:1611が、地震に誘発された海底地すべりの可能性があるという見解か?
今村:そうですね。都司先生の当時の見解。
宮村:海底地すべりは長期評価と同じ考えか?
今村:非常に難しい。ゆれより波は大きいが、一定のメカニズムでないと将来の推計ができない。狭義での、津波地震とは言えない。
宮村:海底地すべりは400年に3回とは異なると?
今村:そうです。(海底地すべりは)推定が難しい。将来の予測は難しい。長期評価ではできない。
宮村:海底地すべりでも、マグニチュードが0.5、波の方が大きいと津波地震というのか?
今村:広い意味での津波地震ならそうだ。長期評価は繰り返し起こるだろうという地震を評価する。海底地すべりは不確定だ。違うメカニズムのものを入れるのは難しい。
宮村:違うメカニズムのものをくくって入れるのはおかしい?
今村:地震の長期評価だから。津波の長期評価ではない。海底地すべりは難しい。私の持っている違和感がある。

宮村:1611は今も研究が進んでいる?
今村:今も研究している。堆積物からマグニチュードはもっと大きいだろうという研究もある。
宮村:1611は、1896や1677とポアソンでまとめて400年に3回で評価しているが、どうか?
今村:非常に理解が難しい。領域を広げればいろいろなものが入る。固有地震は一定のメカニズムがある。長期評価は解釈を拡大している。

7 長期評価の信頼性について

【弁10-1 『月刊地球』「今後30年間に起る確率20%--三陸沖から房総沖にかけての津波地震の長期評価」島崎邦彦】
【弁10-2】
3回のくり返しは知られていない。この領域のどこか400年に3回
133年に1回のポアソン
宮村:3回の個別的性質は分からない。400年に3回、日本海溝沿いどこでもという根拠は示されているか?
今村:示されていない。根拠はどう見てもわからない。
宮村:この島崎さんの論文を読んだか?
今村:読んだ。なかなか難しい。
宮村:論文全体から根拠を知るのは難しいか?
今村:はい。

【弁10-3 】
長期評価の反響 「400年に3回は古地震研究者には既知だが多くの地震関係者に意外性を持って受け取られた」
宮村:400年に3回は意外だと?
今村:はい。
宮村:津波評価部会の中では、400年に3回というのは意外と受けとめられたか?それとも、未知の知見ではなかったか?
今村:はい、意外だった。
宮村:ん、え~、それは、意外性をもって受けとめたと?
今村:はい。1611が津波地震というのが意外だった。
宮村:整理すると、400年に3回、1611、1677、1896の地震の存在は意外ではない。1611が正断層ではなく、津波地震としたのが意外だと。どこでも起こるとしたのが意外だと。こういうことか?
今村:ええ、はい。

【弁11-1 『月刊地球』「津波地震の発生メカニズム」谷岡・佐竹】
【弁11-4】
宮村:付加体と津波地震の関連の記載か?
今村:はい。
【弁12-1 『月刊地球』「地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性」松澤暢・内田直希】
【弁12-6】
おわりに 「福島沖から茨城沖、大規模な低周波地震は○」「鶴(哲郎)らによれば、厚い堆積物は見つからない」「大きな波は引き起こさないかもしれない」
宮村:3.11前に、この調査結果を覆すものはあったか?
今村:ないと思う。

【指7 H16年 重みづけアンケート Q1-6-1】
宮村:先生は、②に0.6とつけた。その重みの趣旨は、
・どこでも1896と同じものが起こる
・どこでも起こるとしても規模が違う
どちらか?
今村:ここでは後者。重みをつけづらかった。北と南は違うだろうと頭にあった。
宮村:0.6というのは、長期評価と同じという意味か?
今村:いいえ、違います。

8 中央防災会議における検討について

宮村:中央防災会議は専門調査会を開き、平成18年1月に報告書を出している。
【弁15-1 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告】
宮村:先生は委員だった?
今村:はい。
宮村:地震本部と中央防災会議の役割の違いは?
今村:地震本部は様々な情報を理学的知見で評価する。中央防災会議はその結果を踏まえて地域で取り入れる。被害の軽減をする。
宮村:地震本部と中央防災会議の違いによるスタンスの違いはあるか。
今村:あると思う。今は違いがないようにしている。当時、理学的と実践的とで違いがあった。

【弁15-2】4.防災対策の検討対象とする地震
【弁15-3】
【弁15-4】選定の結果、防災対策の検討対象とする地震
宮村:津波地震は、日本海溝沿いどこでも起こるとしているか?
今村:していない。
宮村:過去のくり返し地震が検討対象か?
今村:はい。
宮村:最初は事務局から提案されたか?
今村:はい。
宮村:南海トラフや他もそうか?
今村:そう。理解できる。
宮村:どの津波をどのように選択したか?
今村:国が責任をもって方針を出す。しっかり根拠をもって。甚大性、切迫性があるかどうかで。貞観の地震など南海トラフでは見られないものもある。当時の知見・データでは難しかった。私は、今後検討してと言った。
くり返し性、甚大性、切迫性だ。
宮村:事務局がそう提案したのか?
今村:全体でそうなった。
宮村:他の委員はどうだったか?
今村:阿部先生、島崎先生もいた。長期評価の取入れは難しいとなった。
宮村:事務局の誘導があったのか?
今村:審議の結果だ。
宮村:専門調査会の下に、北海道ワーキンググループがあった?
今村:はい。
宮村:先生も途中から加わった?
今村:はい。
宮村:報告書を出したか?
今村:はい。
【16-1 北海道ワーキンググループ】
【16-2 委員名簿】
座長:笠原稔  佐竹、谷岡、平川一臣
宮村:中心はどなたが?
今村:谷岡先生。北海道方面に知見があった。
宮村:中央防災会議専門調査会の第10回で、北海道WGの報告書を出した?
今村:はい。
宮村:専門調査会は引き続き開かれた?
今村:はい。
宮村:北海道WGが出た後、これを報告書の前提とする、とあったか?
今村:それはない。

9 茨城沿岸津波浸水想定検討委員会について

【18-1 茨城沿岸津波浸水想定検討委員会 委員名簿】
宮村:今村先生のほかに、佐竹健治先生。
【18-2】
【18-3】図2-4-1 想定地震の波源位置
宮村:波源を動かすという考えはあったか?
今村:いいえ。
宮村:茨城県は、明治三陸と延宝房総沖を波源として設定した。延宝房総沖のところに明治三陸を置く方が津波は大きくなるか?
今村:そうかもしれない。
宮村:そう主張はしなかったのか?
今村:はい。根拠をもって言わないといけない。
宮村:房総沖に明治三陸をもってくるということについて、佐竹さんから出たか?
今村:そのような記憶はない。

10 耐震バックチェックルールと長期評価

【弁19-1 耐震BCR H18.9.20 保安院】
P44 津波の安全性「考慮すべき最新の知見」
宮村:長期評価は「考慮すべき」に当たるか?
今村:長期評価が公表されたが、非常に根拠がわかりませんでした。違和感があった。そのまま取り入れることはないと。
宮村:東電の高尾さんに会った時に、取り入れるように言った?
今村:はい。可能性は別として、推本だから評価はするべきと。直ちに取り入れる知見ということではない。
宮村:無視するわけではないが、検討はすると?
今村:はい。
【弁15 今村先生ご相談 議事録 H20.2.26】
宮村:今村先生から、「私は、福島沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できない」と発言された。これは言葉足らずであったと?
今村:(長期評価には根拠となる)情報が入っていない。付加体、沈み込み。北部の明治三陸タイプを南に置くのは理解できない。(1611は)大津波はあっても津波地震ではない。数値解析をしなさいという意味だ。
宮村:それは長期評価の知見を取り入れてか?
今村:いいえ。規模も分からなかったから。検討はしなければならない。
宮村:それは、直ちにBCに入れなければという意味ではないということか?
今村:はい。

【指8 H21 重みづけアンケート 2回目】
②どこでも起こるが南部はすべりが小さい 0.6
宮村:②に0.6をつけた。南部に起こるとしても規模が違うと?
今村:自分の中で整理ができていない。過去に福島沖は(津波地震が)ない。手がかりがない。手探りだった。
宮村:南部でどこでも起きるという前提ではない?
今村:はい。
宮村:福島沖で起こるとしても規模がわからない?
今村:鶴らの論文は、福島沖と茨城沖は構造が似ているとあるが、そのまま使っていいという手がかりはない。
宮村:津波評価部会は、第四期で波源モデルの検討をした。電力事業者がまちまちでやるより、さまざまな知見をまとめるというのは、合理性があるか?
今村:合理性があると思う。各事業者、各地域によってまちまちよりも。

11 土木学会に検討を委ねた方法の相当性について

宮村:まず津波評価部会で議論をし、その中で長期評価についても検討するというのは妥当か?
今村:はい。
宮村:3.11以前に、津波評価技術の改訂を待たず、直ちに工事すべきという考えはあったか?
今村:当時は考えていない。
宮村:長期評価を取り入れて、原発を止めるべきだとは?
今村:そこまでの根拠、知見、データが無い。
【指17-4】「南部は1677年を設定」
今村:南部は北部と構造が違う。1677を参考にと。そのまま使うとは言っていない。
宮村:どうしてか?
今村:津波痕跡を調べないと手がかりがない。ゼロの状況。1677をスライドしてよいのか、定量的評価ができない。
宮村:南は1677を設定することに反対はないと言ったが、これが承認されても波源モデルは決まっていない?
今村:出発点としてくださいと。
宮村:参考としつつ、アレンジを加える可能性があると。それで幹事団には反対しなかった?
今村:はい。
宮村:以上です。

第3 指定弁護士再主尋問(弁護人主尋問に対する反対尋問)

1 津波地震のメカニズムについて

久保内:津波地震のメカニズムについて聞きます。
【指9-4 『月刊地球』安倍論文】
久保内:2002年当時、メカニズムはまだ明らかとはいえなかった?
今村:ある程度は。付加体などは分かってきた。狭い意味での津波地震はだいぶ分かっていた。
【指8 「津波地震で発生した津波―環太平洋での事例」『月刊地球』今村文彦】
久保内:証人の論文。どんな内容か?
今村:過去の、広い意味での津波のメカニズムについて。
久保内:付加体の無いところでも津波地震があるか?
今村:津波地震はある。
久保内:どこで?
今村:ええと。
久保内:資料を示します。
【甲A42 P401、P403】(津波地震5パターン。付加体は①だけ。)
久保内:狭義の津波地震が5つ。①から⑤。
①は付加体によるものか?
今村:はい。
久保内:②は、緩やかな断層で、付加体は無し。付加体が無くても津波地震は起きるのか?
今村:はい。日本海溝南部がそう。
久保内:1677がそうか?
今村:はい。
久保内:ニカラグアもか?
今村:はい。

【弁5-6 鶴哲郎ら論文 2002】
久保内:構造について、1677は記載が無い。
今村:過去100年程度の地震のプロットなので。

久保内:1611について。正断層という説や、津波地震という説などがある。2002年当時の主流の考えは?
今村:正断層と津波地震が主だった。
【弁14-2 ロジックツリーアンケート 】
①1611は津波地震 0.7  ②1611は正断層 0.3
久保内:津波地震の方が多いが?
今村:この中ではそうだ。他にも説があるが。

久保内:今回の(3.11の)地震は、福島沖海溝沿いでも津波地震が起きた?
今村:はい。付加体のある所でも起きた。
【弁5-6 鶴哲郎ら論文 2002】

久保内:(付加体のある)北部のタイプはどこまで?
今村:7までが北部タイプか。
久保内:今回の地震はどこで起きた?
今村:7から8くらいですべった。北部と南部の間で。

2 推本の議事録は検討していない

山内:指定弁護士の山内から聞きます。長期評価が公表されて、三陸沖から房総沖を一体と見てどこでも起きることに違和感があったと。長期評価の結論が出るまでの経過、議事録を見たりしたか?
今村:2段階ある。公表されたときは、発表資料は見たが、議事録は見ていない。違和感を感じた。そのあと、『月刊地球』の谷岡・佐竹論文を読んだ。
山内:その後、議事録を読んだか?
今村:1から10まで見ていない。議論についてお聞きした。
山内:いつ頃?
今村:『月刊地球』に執筆を依頼されて、情報交換をした。
山内:その時に議事録を見てはいないと。
今村:はい。

3 中央防災会議は一般防災を担当する場

山内:長期評価とは別にして、中央防災会議ではくり返しのある地震に絞っている。中央防災会議の担当は一般防災か?
山内:はい。
今村:原子力防災の議論ではない?
山内:はい。私は原子力防災を認識しているが、それに特化した議論はしていない。

4 推本の長期評価についてどのように対応するべきだったのか

【指13 今村ご相談議事録 H20.2.26】
今村先生ご意見「福島沖海溝沿い否定できない。波源として」
山内:先ほど、コメントに情報が全部入っていないと言った。証人は、長期評価に基づいて試算はせよと言ったか?
今村:はい。
山内:長期評価に基づいて対策を取れと?
今村:はい。
山内:起きるか分からないが試算すべきという意味は?
今村:第一は、地震本部の結果が公表されていること。影響が大きい。どんな影響があるか具体的に見たい。過去に地震が無いが、全く起きないということはないだろう。大地震は否定できない。モデル化の特定ができないので、いくつか仮定が必要だと。
山内:対策を取る必要が無いが、試算する。対策を取る可能性があるから試算すべきと?
今村:対策を切り離してはいる。結果によっては対策が必要と。
山内:痕跡高を示す堆積物が見つからない場合はどう考える?
今村:
・堆積物を置いたが、引き波で無くなった。
・堆積物は残ったが、経年変化で無くなった。
・津波が砂をまき込まなかった。
3例考えられる。
山内:津波の堆積物が無くても、津波が来ているかは考えないといけない?
今村:そうですね。でも当時、福島第一近くで調査がなかった。
山内:私からは以上です。

第4 裁判官尋問

左陪席:長期評価について、違和感を持つ人もいた。支持している人もいた。専門分野による傾向はあるか?
今村:歴史地震の分野の方は支持していた。メカニズム・工学分野の人はなかなか理解できないという感じ。
左陪席:その差はどこから出てくるのか?
今村:『月刊地球』の著者でも差がある。
「どこでも起こる」という考えは厳しい。1611のメカニズムを調べたりしたが、長期評価は荒っぽいと感じた。

右陪席:今井です。平成20年の高尾さんへの説明で、直近のBCに取り込まず、土木学会に委ねるのが妥当と判断した理由は?
今村:当時の判断だ。長期評価を取り入れる理由(根拠)が理解できなかった。
右陪席:時間的に考えても?土木学会に委ねると対策までに時間がかかるが、それでも?
今村:切迫性を感じていなかった。現地調査が大事だと思っていた。時間がかかると思っていた。

尋問終了

第5 証拠申請

弁148-154 同意・採用
要旨告知
易:
【リスト4 資料出力報告書】
耐震設計審査指針改訂及び耐震バックチェック実施の経緯に関する資料
H7改訂BCの経緯
H7.9.29原子力安全委員会 兵庫県南部地震
H18.5.11 新指針 保安院の対応について
【リスト5 弁護人作成】
JNES H26.1 津波構造設計 リスク評価
【リスト8 弁護人作成】
H14.7.22 保安院
民間規格の活用について 民間基準を積極的に活用。
【リスト24】
JAEA 東海第二原発 長期評価に基づいて南に波源を パラスタ
図4 水位 浸水範囲 敷地道路1.699m浸水、取水ポンプ5.543m浸水
JAEA 長期評価に基づいて南に明治三陸を
図7 大部分浸水 BC対象建屋0.283m浸水
【リスト99】土木学会 2011.5.10付リリース
「そこに利害関係の入り込む余地はないと言える」「本報告書が「お手盛り」なのではないかといった見解は事実無根」「誤解である」
【リスト108】PRA実施基準 日本原子力学会 2010.2
【リスト129】津波常襲地域 建設省河川局・水産庁 H58.3
15:17閉廷