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不起訴相当議決を受けて
団長 武藤類子
福島原発告訴団が2015年1月13日に告訴した事件について、東京第一検察審査会は、被疑者5人全員に不起訴相当の議決を出しました。先の東電幹部が強制起訴された事件とともに、国の刑事責任にも迫る重要な事件だっただけにとても残念です。
私たちは、二度と同じ悲劇を繰り返させないために、福島原発事故の真実を解明し、責任を問うことを続けてきました。免振棟建設を反故にし、熊本地震の中、避難経路が寸断されても止められない川内原発。運転40年を過ぎ、延長期限までに対策が間に合わなくても認可される高浜原発。このような信じがたい出来事が起こるのは、福島原発事故の責任がきちんと問われていないことも一因だと思います。
これから東電幹部らの刑事裁判も開かれます。また汚染水告発事件では、福島検察審査会へ申し立てを行いました。これらの支援と働きかけをしっかりと行っていく考えです。今後ともみなさまのご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。
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検察審査会不起訴相当決定についてのコメント
福島原発告訴団弁護団
2016年4月28日,東京第一検察審査会は東電関係2名,保安院関係3名の被疑者について検察官が下した不起訴処分について不起訴相当との判断を示した。
津波対策の経緯
決定は,津波対策がとられることがなかった経緯について,次のような事実関係を認定した。15.7メートルという解析結果を受けて,被疑者高尾は,被疑者酒井の指示を受けて,東電設計株式会社に対して,原子炉建屋等が設置された敷地に対する津波の遡上を防ぐため,敷地にどの程度の高さの防潮堤を設置する必要があるかに関する解析を依頼し,平成20年4月,東電設計株式会社から,10メートルの高さの敷地上に,さらに約10メートルの防潮堤を設置する必要があるとの解析結果を得たとされている。
この結果について,同月,被疑者高尾の部下は,土木調査グループが,機器耐震技術グループや建築グループなどの関係グループと打ち合わせする際に伝えていることも認定された。
被疑者高尾は,東電設計株式会社に対して,同年5月,敷地上の防潮堤の設置以外の方法により津波の影響を低減する方策の検討を依頼した。
被疑者酒井及び同高尾が,同年6月2日,それまでの検討状況を,吉田原子力設備管理部長に報告したところ,「私では判断できないから,武藤さんにあげよう」旨の発言があり,武藤栄原子力・立地本部副本部長に報告することになった。
6月10日の会議において,被疑者酒井及び同高尾から,武藤副本部長に対して,土木調査グループとしては,耐震パックチェックにおいて,推本の長期評価を取り上げるべき理由や,対策工事に関するこれまでの検討結果等を報告したが,その場では結論は示されず,次回までの検討課題が示された。
7月31日の会議において,被疑者酒井及び同高尾から,武藤副本部長に対して説明したが,その際に,防波堤等の建設費が数百億円規模になること,沖合の防波堤の設置に伴って許認可等が必要となることから,設置工事の意思決定から工事完了までに約4年を要し,環境影響評価が必要な場合にはさらに約3年を要することなどを報告している。
こ の会議では,最終的に,武藤副本部長から,「福島県沖海溝沿いでどのような波源を考慮すべきかについて少し時間をかけて土木学会に検討してもらう」「当面 の耐震バックチェックについては,従来の土木学会の津波評価技術に基づいて行う」「これらの方針について専門家に相談する」という方針が示された。被疑者 酒井及び同高尾は,土木学会の検討結果が出た段階で,それに基づく対策を講じるとの方針であることから,その方針を受け入れた。
東電の担当者には予見可能性があった
そして,決定は,これらの事実関係をもとに,因果関係については,その基本的な部分を予見できれば良く,本件地震・津波そのものの規模等まで予見しなければならないというものではない。基本的な部分を予見できれば足りるのであるから,被疑者酒井及び同高尾には予見可能性があったというべきであるとしている。
この点は,役員に対する起訴決定と基本的に同一の結論であり,これを補強するものである。今回の決定は,今後開かれる刑事裁判において,役員に対する刑事責任を追及する上で,マイナスになるような要素はないといえる。
結果回避可能性がないとした点は不当
そ のうえで,従業員に過ぎない被疑者酒井及び,同高尾に対して,そのような上司の判断に対して異を唱えて上司を説得するとか,外部に通報する等の措置をとる ことを期待することには無理があるとして結果の回避可能性がないとした。会社が無責任な対応をしているときに,社員としてやるべきことはないのだと言わん ばかりの決定の論理は公益通報制度の意義を否定するものであり,到底許されない。
保安院関係者の予見可能性を否定
また,保安院関係の3人の被疑者については,貞観の津波についての知見を知りながら,決定は,結果の予見可能性がないとして不起訴は相当とした。この点については,重大な事実誤認と法的な論理の間違いがあると考えられる。
今回の決定は残念なものであったが,今後開かれる刑事裁判の中で,東電役員らの責任を明らかにするため,あらゆる努力を続けていく。